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福島地方裁判所平支部 昭和31年(ヨ)10号 決定

申請人 古河鉱業株式会社

被申請人 古河好間炭鉱労働組合

主文

一、被申請人組合はその組合員を申請人古河好間炭鉱の別紙表示の

石城郡好間村大字上好間字小館地内

A区域

(着到事務所、充電工場、鉱務課事務所、営繕倉庫、第二斜坑捲上工場、第二斜坑控室、ピック夫詰所、安全灯室、常務倉庫、日勤工場、機械工場、電気倉庫、綱材倉庫、ポンプ試運転室、堅坑圧気機工場、機械油倉庫、所長室、鉱業事務所等を含む(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)(o)(p)(q)(r)(s)(a)の各点を結ぶ区域)

同地内

B区域

(堅坑捲揚工場、堅坑扇風機室、堅坑日勤工場、第一堅坑、堅坑検身所、第二堅坑、選炭工場、監量事務所、堅坑運搬見張、炭車修理工場、材料倉庫、資材倉庫、車庫等を含む(a)(b)(c)(b)(e)(f)(g)(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)(a)の各点を結ぶ区域)

同村大字北好間字山の坊地内

C区域

(字山の坊所在、堅坑排気工場、山の坊扇風機室圧気機工場、油倉庫を含む(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)(i)(a)の各点を結ぶ区域)

同村大字北好間字川端地内

D区域

(字川端所在、川端ポンプ座(a)(b)(c)(d)(a)の各点を結ぶ区域)

同村大字北好間字小田郷地内

E区域

(好間古河発電所及び変電所を含む(a)(b)(c)(b)(e)(f)(g)(h)(i)(a)の各点を結ぶ区域)

およびその区域内の前記建造施設物に昭和三十一年三月十九日一番方着到時以降立入らせ又は入坑させてはならない。但し保安要員はこれを除く。

一、前項各区域および区域内の建造施設物に対する申請人の占有を解きこれを申請人の委任する福島地方裁判所執行吏の保管に移す。

一、執行吏は前項保管区域および建造施設物を申請人の保安管理者古賀太郎をして保管せしめ保安要員の通行、配置につき区署させることが出来る。

一、申請人の委任する福島地方裁判所執行吏は右命令の趣旨を公示するため適当な処置をとらなければならない。

(注、保証金百万円)

(裁判官 大竹敬喜 平岡省平 福森浩)

(別紙省略)

【参考資料】

仮処分命令申請

申請人 古河鉱業株式会社

被申請人 古河好間炭礦労働組合

事業場立入禁止等仮処分命令申請事件

申請の趣旨

(一) 申請人から被申請人に対する本案訴訟の判決確定に至る迄被申請人組合は保安要員たる組合員を除き全員別紙添付図面表示の

(A) 石城市郡好間村大字上好間字小館地区域

(着到事務所、充電工場、鉱務課事務所、営繕木工場、営繕倉庫、第二斜坑捲揚工場第二斜坑控、ピック夫詰所、安全灯室、常務倉庫、日勤工場、機械工場、電気倉庫鋼材倉庫、ポンプ試運転室、堅坑圧気機工場、機械油倉庫、所長室、鉱業事務所等を含む(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)(o)(p)(q)(r)(s)(a)の各点を以て囲む区域)

(B) 同地内区域

(堅坑捲揚工場、堅坑扇風機室、堅坑日勤工場、第一堅坑、堅坑検身所、第二堅坑、選炭工場、監量事務所、堅坑運搬見張、炭車修理工場、材料倉庫、資材倉庫、車庫等を含む(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)(a)の各点を結ぶ区域)

(C) 同村大字北好間字山の坊地内区域

(字山の坊所在、堅坑排気工場、山の坊扇風機室、圧気機工場、油倉庫を含む(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)(i)(a)各点を結ぶ区域)

(D) 同地内区域

(字川端所在川端ポンプ座(a)(b)(c)(d)(a)の各点を結ぶ区域)

(E) 同村大字北好間字小田郷地内区城

(好間古河発電所及変電所を含む(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)(i)(a)の各点を結ぶ区域)

に立入り又は入坑してはならない

(二) 前項の各区域内の建造施設物は之を申請人の委任する福島地方裁判所執行吏をして占有せしめる。

(三) 申請人の委任する福島地方裁判所執行吏は右命令の趣旨を公示する為め公示札其他適当な処置をとらなければならない。

(四) 執行吏は右占有区域を申請人会社の保安管理者古賀太郎をして保管せしめ保安要員の通行及配置につき区署させる事が出来る

との趣旨の仮処分決定を求める。

申請の理由

一、申請人会社は肩書地に本社を有し、九州、北海道、及常盤好間地区に各炭鉱を所有して石炭の採掘販売を業とする会社であり被申請人組合は申請人会社の好間鉱業所の従業鉱員一、七三四名を以つて組織する唯一の労働組合であつて古河系各炭鉱労働組合連合会に所属し日本炭鉱労働組合に所属する労働組合である。

二、而して被申請人組合を含む日本炭鉱労働組合(以下炭労と呼称する)と申請人会社との間に於て昭和三十年十一月十日以降昭和三十一年一月一日以降の新賃金を繞つて団体交渉を開き組合は新規増額要求に対し会社は昭和三十年四月八日付賃金協定を更に向う一ケ年間延長適用方申入れた事に対して組合側は之を一蹴し更に三月八日迄の期限付回答を求め会社側は慎重審議の結果昭和三十一年一月以降三月迄は現行通りとして四月以降については生産性向上との関連に於て具体案を検討の上来る十日に回答する旨三月八日付回答したのに対して炭労は昭和三十一年三月八日に申請人会社に対して次の様な通告を発して来た

(一) 当方加盟傘下全支部は次の通り実力行使を決行する

(1) 三月九日より十七日迄一斉一時間休憩の実施

(2) 三月十五日より十七日迄拘束八時間とし時間外労働の拒否

(二) 規模は次の通り

(1) スト規模

坑内より石炭を出す作業の拒否

(2) 期日

三月十九日一番方より要求貫徹迄無期限

之に対して申請人会社は三月十日附次の通りの回答をした。

(1) 昭和三十一年四月以降十二月迄は昭和三十年四月八日附協定賃金を延長適用するが、当該期間の業績手当として、生産性の向上に協力されることを条件として在籍一人当り(専従者 長欠者 休職者を除く)金一、八〇〇円(税込み)を支給する、

(2) 右手当の支給条件、並に方法については別途協議する

然し乍ら組合側の容れる処とならず交渉は成立を見るに至らない(以下甲第一号の一二、甲第二号の一、二)

三 而して昭和三十一年二月二十七日附炭労中闘発〈賃〉第二九号の炭労の其の傘下各組合に対する実力行使決行に関する指令(疏甲第二号の一)及別紙部分スト実施要綱(疏甲第二号の二)に拠るときは右炭労傘下の組合は三月十九日、一番方より一斉に部分ストに突入することを指令して居るのである。而して被申請人組合が同部分ストを十九日一番方以降無期限に決行するとの意思表示は三月八日附被申請人組合から申請人会社の好間鉱業所長伊藤文健宛、書面を以つて通告された(疏甲第四号)。

右部分ストは其内容は重要部門を担当する極めて少数の組合員の犠牲罷業に依つて石炭採掘搬出機能が麻痺停止され全面ストと同様の打撃を会社に与え他面殆ど大部分の組合員は通常通り賃金を要求するストライキであり、石炭産業に於ては採炭切羽から積込み場迄の長い区間を炭車や、ベルト、で出されて来るのであるが之を動かす諸機械の運転従業者数人の行うストに依り此の運搬動脈がストップするときは回転不能となつて採炭から送炭に至る一切の機能が停止されるのであるが之に依つて従来会社側は、出炭を見ずして、しかも賃金支払を続け全く致命的打撃を蒙る様な損害を受けて来たのであるが、組合側は之を以つて会社側を屈服させる最も効率的なストとして従来用いた戦術であるが今回も亦、此戦術を以つて会社側を屈服せしめんとしているものである(疏甲第九号証)。

四、之に対して会社側は大手筋十三社共同して戦線を結成し此部分ストに対抗する最後の手段として遂に事業場閉鎖所謂ロックアウト戦術を採らざるを得なくなつたので申請人会社は各事業所一斉に昭和三十一年三月十四日午後〇時三十分を期して三月十九日一番方実施時間から組合からの労務提供を拒否する旨併せて会社事業所の全区域及施設物に立入ることを禁ずる旨の所謂ロックアウトを実施する旨の通告をした(但し厚生施設組合事務所等を除外した)申請人会社の好間鉱業所長から被申請人組合に対しても同時刻右通告をしたのである(疏甲第五号)(疏甲第三号の一、二、部分スト対策の社門禀議書)。

五、右会社のロックアウト通告に伴い三月十九日一番方より実施する会社側の閉鎖行為に対しては被申請人組合は先の炭労の指令する部分スト実施要綱に基いて、右会社の閉鎖行為を無視し排除して実力を以つて強行就労の手段に出ることは既定の事実にして之を実力を以つて阻止せんとする会社側との間に於て一大衝突の事態を見ることは当然予想される処である。

組合側のストに基いて会社側の生産機能が麻痺し又は停止した場合に於て之に対抗する手段としてのロツクアウトが適法のものであることは既に法令及判例の示す処にして組合側は右閉鎖実施区域及その施設物に対する立入の許されないことは当然であるが、しかも此法理を無視して強行就労を指令しているのである(疏甲第二号の一、二、炭労指令部分スト実施要綱)会社側は之に対して非職員組合員十四名及職員組合員約百五十九名合計百七十三名の人員で実力を以て一、七三四名の組合員の強行就労を拒ぐため勢い暴行、傷害、器物毀棄等の事犯の発生は当然予想され警察官の出動保護を求めても徒らに両者の犠牲者出血者を見るに至るべく収拾つかざる事態の発展も考慮される。のみならず炭鉱に在りては人命保護の見地から坑内外の保安確保に関しては鉱山保安法規によつて保安管理者を指定することを必要とし此法定の保安管理者が坑内外一切の保安に関する法律上の責任を負い監督上の権限と義務を有する者であるが若し被申請人組合が強行入坑を実施せんか他の産業職場と異なり瓦斯爆発落盤或いは出水等の事故予防に関する保安管理者の統一された指揮命令は実施されず如何なる事態の発生するやも計り難く斯る場合を予想するだに全く慓然たらざるを得ないのである。

六、然かも被申請人組合及、其上部団体は会社がロックアウトを実施し立入禁止の仮処分命令執行の場合には保安要員の引上又は、差出拒否の戦術に出でよと指令しているのであるが、争議行為中、右保安要員の差出及、その確保に関しては、労働関係調整法第三十六条及、会社と被申請人組合との労働協約第九十六条により、組合の当然の義務なるに不拘、之が差出拒否、引上を指令して居るのである、斯る不法不当な行為は許さるべきでは無く、保安要員引上、差出し拒否の場合に起るべき坑内不安は此れ又、前項の保安管理の喪失の状態と同様、否それ以上である然かも此事業場は他の炭鉱に比して特に坑内出水量多く坑底ポンプ座の機能が約二時間停止するときはポンプ座は水沒して排水困難となり坑道は水沒して落盤其他の被害が続出して或は全山抛棄の事態に立至ることが予想され坑内保安確保は一刻も忽せにすることは出来ないのである。

(以上五、六項疏甲第八号、保安管理者、口述要旨、及疏甲第号労働協約書)

七、以上の如き次第にして申請人会社の適法に実施する、ロックアウトに関して、被申請人組合の強行就労、強行入坑及、之に伴う各種不法な刑責行為の発生、又は保安要員差出拒否等の事態の発生によつて起ることを予想される坑内外の危険事故及、被害の予防の見地から平穏裡に合法的に争議行為を続けるためには一に裁判機関による占有関係、保持のための仮処分命令に依つて、被申請人組合の強行就労、或は、保安要員差出拒否等の不法を防ぐ以外に、他に採る途なく、仍て本件、仮処分命令を申請する次第である。

八、而して仮処分を命令に於て、立入禁止を求める場所は本来ロックアウトした範囲全般と一致させるべきではあるが事業所全区域は別紙図面に示す通り、(A)(B)(C)(D)(E)の各区域及之を包括する区域であるので、本件仮処分申請は会社に於て事業場閉鎖を実施したるについてその目的を達するための必要限度として、(A)(B)(C)(D)(E)の各区域に限局したものである。

更に申添える事はロックアウトの実施は三月十九日の未明一番方からであり従つて強行入坑の実施の予想されるは、当然、十九日未明であつて其時間に於て、之を防禦する会社側と一大衝突が行われる気配なるを以て速かな御決定を得たいのである。

添附書類(省略)

疏明書類

一、疏甲第一号の一、二

一、疏甲第二号の一

(炭労中闘発〈賃〉第二九号、実力行使決行に関する指令、及、部分スト実施要綱)炭労指令が昭和三十一年三月十九日一番方から部分ストを実施し石炭搬出拒否を実施すること、及、ロックアウトの場合、組合は之を無視し排除して強行就労をすることを指令していること、又、此の度のロックアウトは全山を麻痺させる部分ストに対抗するものとして適法なものであることを、組合は自認していること、更に仮処分命令の出た場合は、保安要員を引き上げ、又は差出拒否すべき事を指令している事実を疏明する。

(中略)

一、疏甲第四号

(古河好間炭鉱労働組合から好間鉱業所長宛スト実施の通告書)

昭和三十一年三月十九日一番方以降無期限に一斉原炭搬出拒否部分ストライキ実施を通告して来た事実を疏明する。

一、疏甲第五号

(会社の好間鉱業所から被申請人組合に対して事業所閉鎖の通告書)

同年三月十九日一番方から部分ストに対する対抗策として事業場閉鎖する旨を通告した事実を疏明する。

(以下省略)

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